皆様、こんにちは! デンタルサロン・プレジールの歯科医師、中村です。いつも「歯医者さんがホンネで薦める審美歯科ここだけの話」をご愛読いただき、ありがとうございます。このコラムでは毎回、皆様のお口の美容と健康に役立つお話を紹介させていただいています。
さて今回お話ししたいのは、「歯科の再生医療」についてです。
ここ数年、医療の世界では、iPS細胞やその他の幹細胞を使って、体の失われた機能を再生する「再生医療」が大きな注目を集めています。それは歯科でも同じで、天然歯と同じ機能を持った「再生歯」を作るための研究が進められています。失った歯を再現する本当の意味での「歯の再生」は、まだ達成されていませんが、インプラントや入れ歯を入れるまえに行う歯周組織の再生など、新しい技術はさまざまな形で治療の中に取り入れられていますし、10数年か数十年後には、失った歯を再生することも可能になるといわれています。
歯周病治療の中での再生療法
歯の再生医療と聞くと、失った歯がまた生えてくるイメージを持ちがちですが、残念ながら今の技術ではまだ歯を完全に再生することはできません。しかし、GTR法やエムドゲイン法など、歯の周りの組織(歯周組織)を再生する方法はあり、歯周病で歯を支える骨(歯槽骨)が溶けてしまった場合の治療法として採用されています。
歯周病は、進行すると歯を支える歯槽骨や歯の周りにある歯根膜という組織を破壊します。通常、一度破壊された組織は二度と元には戻りませんが、状況によっては再生できる可能性があるのです。
GTR法
歯槽骨が広範囲にわたって溶けてしまったときなどに使われる方法です。
歯周病により溶けてしまった骨は、原因となるプラーク(細菌の塊)や歯石を取り除いてやれば、自力で再生しようとします。しかし、ただ原因を取り除いただけの状態では、骨が再生するまえに別の組織が入り込んでしまうため、元どおりには再生してくれません。そこで、再生してほしい部分に特殊な膜を被せ、別の組織が入り込まない状態で再生を促すのがGTR法です。以前は回復後に膜を取り除く必要がありましたが、今は吸収される膜が使われているため、1回の診療で済むようになっています。
エムドゲイン法
骨が溶けた範囲が比較的狭い場合に使われる方法です。
「エムドゲイン・ゲル」というたんぱく質の一種を歯の根の表面に塗り、ちょうど歯が生えてくるときと同じような環境を作ることで、骨や歯周組織の再生を促します。おもに歯を失わないための予防法として使われます。
これらの治療法は、溶けた骨を回復してインプラントのための土台を作ったり、歯周病でぐらぐらになってしまった歯を保存したりする際に役立ちます。ただ、どのような場合でも使えるというわけではないので、まず歯科医師に相談してみてください。
移植に備えて抜歯した歯を預けられる「歯の銀行」
意外に思うかもしれませんが、歯の移植も再生医療のひとつに数えられています。
親知らずや矯正治療での抜歯など、何らかの原因で抜歯した自分の歯を使う「自家歯牙移植」と呼ばれる方法です。誰でも可能なわけではありませんが、自分の歯を使うため人工歯より口の中になじみやすく、拒絶反応もほとんど出ません。なお、自家歯牙移植を行うためには、次のような条件が求められます。
- 歯根膜が付着している健康な抜歯した歯がある
- 虫歯や歯周病などがなく、口内が健康
- 移植する歯の形がシンプル
- 移植先の顎の骨が健康
自家歯牙移植に使える歯を半永久的に保存しておくために、広島大学の学内ベンチャーが、抜歯した歯を保存する「ティースバンク」という組織を立ち上げました。これは、患者さんから預かった歯を広島大学病院内に冷凍保存し、いざ移植が必要になったときに利用しようというものです。なお、全国に454件ある協力歯科医院を介して、ティースバンクで健康な歯を保存することができます(協力歯科医院の数は2017年5月現在)。
歯を完全再生する方法は現在研究中
幹細胞を使って歯そのものを再生する研究については、現在のところマウスを使った動物実験の段階にとどまっています。
2009年に東京理科大学、東北大学、東京医科歯科大学がマウスの歯の完全再生に成功していますが、これは母親の胎内にいる胎仔から採取した、「歯胚」と呼ばれる歯の成長する元となる細胞を使ったものです。一度ばらばらにしたあとに、再び細胞の塊にして人工の歯胚を作り、それを動物の体内で培養するという方法で行われました。2011年には東京理科大のチームが、この人工歯胚をマウスの腎臓内で培養し、口内の臼歯を失った部分に移植・定着させることにも成功しています。
歯の再生医療の実用化はいつ?
先ほど、歯の再生医療の研究は進んでおりマウスによる実験は成功していることを説明させていただきました。
しかし、同じことが人でもできるかといえば、人工歯胚を作る段階での困難さや動物の体内で培養することへの倫理上の問題、ウイルスなどへの感染の懸念といった数々のハードルがあり、すぐに応用するわけにはいきません。
しかし、シャーレの中で歯の幹細胞と特殊な培養液を使い、歯の一部を再生した実験例もあります。
このまま技術が進んでいけば、10数年か数十年先かはわかりませんが、いずれは人の幹細胞から完全に歯を再生することも夢ではなさそうです。
そして、もし完全な歯の再現が可能になれば、歯を失った際の治療法に「入れ歯」「ブリッジ」「人工歯のインプラント」の3つの選択肢以外に、新たな一石が投じられることになります。
失った歯の完全再生の可能性を含め、再生医療は今後の期待が非常に大きい分野です。
ただし、現時点ではまだ人の歯を完全に再生する技術はありませんし、仮に将来そのような技術ができたとしても、日頃から虫歯や歯周病の予防に努め、そもそも歯を抜くような事態にならないことが最善なことに変わりはありません。
まずは、今ある歯を大切にすることに意識を向けましょう。
執筆責任者
院長 中村
日本歯科大学新潟生命歯学部卒業。一般開業医での勤務、2020年よりデンタルサロン・プレジール歯科医院長就任。
従来の歯科の考え方にはなかった「健全な歯を削らずに」得られる審美歯科がここにあります。
当クリニックを訪れてくださった方に、笑顔に自信を持っていただくことを一番に考え、対応させていただいております。