コラム

Column

除去したほうがいい? 人体に悪影響を及ぼすアマルガムについて

2018.05.02

その他

皆様、こんにちは! デンタルサロン・プレジールの歯科医師、中村です。いつも「歯医者さんがホンネで薦める審美歯科ここだけの話」をご愛読いただき、ありがとうございます。このコラムでは、毎回違うテーマについて、皆様のお口の美容と健康に役立つ情報をお伝えしています。

さて、今回お話しするのは、歯の詰め物に使われる素材「アマルガム」についてです。アマルガムは、安価で手軽だけれど十分な強度があること、歯髄(歯の神経)への影響が少ないことなどから、長期にわたって世界中の歯科治療で使われてきました。しかし、材料に水銀を含むことから、人体への悪影響が懸念されるようになり、現在では使用を禁止している国もあります。
日本では、1970年代頃まで虫歯の治療などに多用されていましたが、2016年に健康保険の適用素材ではなくなりました。そのため、現在では実際に詰め物として使う歯科医院はほぼなくなっています。ただ、昔詰めた素材がアマ
ルガムかどうかは気になるところかと思います。そこで今回は、アマルガムの特徴やほかの素材との見分け方、アマルガムだった場合の対処法について、まとめてご紹介したいと思います。

アマルガムとは?

歯科用のアマルガムとは「アマルガム合金」のことで、銀と錫、銅を主成分に、その他の金属を加えたものです。その成分はJIS規格によって定められていて、銀40%以上、錫32%以下、銅30%以下、インジウム5%以下、水銀3%以下、亜鉛2%以下、パラジウムと白金が1%以下となっています。
見た目が近いからか、たまにいわゆる「銀歯」と混同されますが、現在の歯科診療で一般的に使われている銀歯は「金銀パラジウム合金」といい、その組成は銀が50%前後、銅20%前後、パラジウム20%、金12%とその他の金属からなるもので、水銀は含まれていません(パラジウムと金のみ、JIS規格で定められている割合で組成する必要があり、ほかの成分はメーカーによって異なります)。もちろん、アマルガムとは別物ですのでご安心ください。

アマルガムの安全性

アマルガムがほとんど使われなくなった理由は、人体に蓄積されることで深刻な健康被害を及ぼす水銀が使われており、その安全性を疑問視する声が高まっているからです。

水銀の有害性

水銀は、人体に有害な重金属の中でも、神経毒性が強い物質として知られています。工場排水に含まれる有機水銀(メチル水銀)が魚介類に蓄積され、それを食べた人々に水銀中毒の症状が発生した「水俣病」に見られるように、人体に蓄積されることによって強い毒性を発揮し、中枢央神経や内分泌系、脳、腎臓などに障害をもたらすほか、視力や味覚、筋肉などにも影響を与えることがわかっています。
また、ここまで深刻な状態ではなくても、慢性中毒になるとうつ病や頭痛、貧血、神経過敏、腹痛、アレルギー、喘息、関節の痛み、疲れやすい、集中力が切れやすい、不眠など、さまざまな症状となって表れる場合があります。

アマルガムの出す水銀蒸気が問題

水銀は、金属の状態で人体に入っても、消化器官からはほとんど吸収されないので、毒性は低いといわれています。一方、蒸気の状態で呼吸器系から吸収すると毒性が高く、たとえ低濃度でも慢性的に吸っていると中毒症状が起きる場合があります。
歯科治療に使われていたアマルガムは金属の状態の水銀であり、合金として安定していますので、有機水銀や水銀蒸気のような中毒性の心配はないとされてきました。しかし、近年では「経年とともに少しずつ口の中で腐食し、水銀が体内に蓄積されている」「詰め物に使われたアマルガムが刺激により気化することで、水銀蒸気が放出されている」など、「アルマガムが人体に悪影響を与える水銀の放出源になっている」とする研究結果が多く発表されています。
ある研究によると、歯の治療で使われたアマルガムからは1日平均0.001~0.01mg、アマルガムを詰めるときや除去するときには0.2~0.3mgの水銀蒸気が放出されているとされ、病気や体調不良の原因となっていると指摘されています。

このような状況を受け、日本歯科医師会も2013年に「水銀汚染対策の観点から、歯科用アマルガムの廃絶に向けて取り組んでいくこと」を発表しました。ただし、「口腔内に填塞された(虫歯を取り除いた後、歯の隙間を満たすように詰められた)アマルガム修復物は安定していることから、う蝕(虫歯)の再発等が確認されない限り、原則として除去すべきものではない」ともしています。

アマルガムがあった場合の対処法

もし、自分の口の中にアマルガムが使われていた場合には、どうすればいいのでしょうか。

まず、自身の詰め物の素材がアマルガムかどうかは、ある程度見た目で判別が可能です。一番簡単なのは色で、パラジウム合金が銀色で光沢があるのに対し、治療から時間が経ったアマルガムは、酸化して黒っぽい色をしています。ですから、治療したのが1970年代、80年代以前で、詰め物が黒っぽくなっていれば、アマルガムが使われている可能性は高いといえるでしょう。自分ではわかりづらい場合は、歯科医師に診てもらえば、ほぼ間違いなく判断してもらえます。

除去は慎重に行う必要がある

アマルガムが使われていた場合、対処法としては「除去してほかの素材に置き換える」か「除去しないでそのままにしておく」かの2択となります。「体に悪そうな物なら、除去したほうがいいのでは?」と驚かれる人もいらっしゃると思いますが、アマルガムは刺激で多くの水銀蒸気を排出するため、除去すること自体にリスクがあります。
また、アマルガムの詰め物をしていても、体に及ぼす影響は人それぞれなので、必ずしも除去することが良いとは限りません。体の状態やすでに体内に入った水銀を排出する解毒作用の強さなどを含めた全身の状態を見て、除去するかどうかを慎重に決めていく必要があるのです。

除去する場合は、除去時に発生する水銀蒸気や削りかすが体内に入ることがないように、患者・歯科医師ともに十分に安全に配慮した環境下で行うことが重要です。防護服や防護マスク、口内を保護する「ラバーダムシート」、アマルガムの小破片を吸い込むための口腔外バキューム、換気システムなど、専用の設備や道具が必要になりますので、必ずアマルガム除去に対応した歯科医院で施術を受けるようにしてください。

心配な人はまず歯科医院で詰め物の素材を確認してもらおう

アマルガムは、人体に悪影響を及ぼすことが心配される素材ではありますが、「何が何でも、必ず除去しなければいけない」というものではありません。
とはいえ、危険といわれている物質が常時口内にあるのは、あまり気分のいいものではないでしょう。まずは歯科医院で詰め物の素材を確認してもらい、アマルガムであるかどうかを確定させてください。その結果、アマルガムを除去するのであれば、必ず専門の歯科医師に相談し、安全な環境で施術を受けるようにしましょう。


  • コラムに掲載されている施術などは、必ずしも当院でご提供してるサービスに限りませんので、ご了承ください。