皆様、こんにちは。デンタルサロン・プレジールの歯科医師、中村です。いつも「歯医者さんがホンネで薦める審美歯科ここだけの話」をご愛読いただき、ありがとうございます。このコラムでは、毎回テーマを決めて、皆様のお口の健康と美容に役立つ情報を紹介しています。
さて、今回テーマに選ばせていただいたのは、無意識の嚙み締めや食いしばりのもたらす害と、その治療方法についてです。体に力が入ったときや緊張したとき、気が付いたら奥歯をギュッと嚙み締めていたという経験はないでしょうか?「歯を食いしばってがんばる」という表現があるように、ここ一番のときに奥歯に力が入るのはよくあることです。しかし、自分でも気が付かないうちに嚙み締め・食いしばりをしてしまう人も多く、知らず知らずのうちに歯や口内環境に悪影響が及んでいるケースが多く見られます。
そこで今回は、嚙み締め・食いしばりの癖のセルフチェック法と、有効な治療法についてお話ししたいと思います。
目次
歯の噛み締め・食いしばりは「TCH」の一種
無意識の嚙み締めや食いしばりなどの癖は「TCH(Tooth Contacting Habit)」、日本語では「(上下)歯列接触癖」といわれるものです。上下の歯は、よく接触しているようなイメージがありますが、実は何もしていないときは離れているのが普通。噛み合うのは食事のときや発声する瞬間だけで、その時間は1日に多くても20分前後といわれています。
しかし、TCHがあると、この時間よりも多く上下の歯が接触してしまい、結果として歯や口内環境に悪影響をもたらします。TCHには、次のようなものがあります。
・症例①グラインディング
グラインディングとは、いわゆる「歯ぎしり」で、上下の歯を強く噛んだ状態で、左右に滑らせるような動きをすることを指します。症状が出るのは睡眠中がほとんどで、長く続くと歯が全体的にすり減って表面の凹凸がなくなったり、知覚過敏を引き起こしやすくなったりします。
・症例②クレンチング
クレンチングは、「無意識の食いしばり」を指します。ほとんどが睡眠中に起こりますが、起きているときに発生することもあります。朝起きたときに顎がだるい、歯が浮いているなどの症状がある場合、就寝時に無意識にクレンチングをしている可能性があります。
・症例③タッピング
上下の歯が小刻みにぶつかり合い、カチカチと音を立てる状態がタッピングです。グラインディング、クレンチングより起きる頻度は少なめです。
噛み締めや食いしばりは歯や口内環境に悪影響を与える
TCHにより上下の歯の接触時間が長くなると、筋肉の緊張や疲労、顎関節への負担が大きくなることがわかっています。また、長期間にわたって歯ぎしりや食いしばりが続くと、歯や口内環境に次のような悪影響を与えます。
(1)歯の磨り減りや欠けにつながる
(2)歯周病の進行を早めてしまう可能性がある
(3)知覚過敏の原因となる
(4)顎関節症の原因となる
(5)虫歯などの治療部位が破損するリスクがある
このうち(2)は、歯ぎしりの衝撃で歯槽骨が破壊されたり、歯を支えている歯周組織に炎症が起こったりする可能性が高まることが原因です。また、(4)は、顎関節に大きな負荷がかかることで炎症が起こり、口の開け閉めに痛みを伴ったり、口を大きく開けられなくなったりするためというのが理由で、肩こりや頭痛の遠因になる場合もあります。
TCHかどうかをセルフチェック!
TCHに適切に対処するには、まず自分がTCHかどうか知ることが第一歩です。
TCHは、次のような簡単なテストで判別することができますので、ぜひ確認してみてください。
- 背もたれのある椅子など、リラックスできる所に上半身をしっかり伸ばして座り、正面を向きます。
- 唇を閉じ、上下の歯をくっつけます。
- 唇は閉じたまま、上下の歯が接触しないように、歯と歯のあいだを離します。
- 「2」の上下の歯がくっついている状態と「3」の離れている状態のどちらが落ち着くかを比較します。
- 「4」で「どちらかよくわからない」場合は、歯と歯を離したまま数分過ごし、特に違和感なくいられるかどうかで判断します。
「上下の歯がくっついている状態のほうが落ち着く」場合、または「歯と歯を離したまま数分間過ごすことに違和感がある」場合は、TCHである可能性が高いといえるでしょう。
TCHを改善する「リマインダー法」とは
セルフチェックの結果、TCHの疑いが高い場合は、一度歯科医院で相談するようにしてください。歯ぎしり・食いしばりの原因は精神的なストレスとする説が有力ですが、なぜ起きるかというメカニズムはまだはっきりしていません。
しかし、対処法は明らかになっており、就寝時の無意識下で行われる歯ぎしり・食いしばりに関しては、「ナイトガード」と呼ばれるマウスピースをはめることで対処するのが一般的です。一方、意識のある時間帯に行っているような場合の治療には、「リマインダー法」(認知行動療法)が役立ちます。
リマインダー法とは、無意識に行われている歯ぎしり・食いしばりをまず自覚し、それらを止めるように自分で意識していくことでTCHを取り除いていく方法です。まずは、自分自身で日常の生活を観察して、どんなときに歯ぎしり・食いしばりをしてしまうのか、傾向をつかむところからスタートします。
例えば、「パソコンに向かっているときに無意識に歯を嚙み締めていることが多い」のであれば、パソコンの横に「力を抜く!」などと書いた紙を貼っておき、意識的に力を抜くようにします。繰り返しているうちに、徐々に歯を離しておくことが普通になり、歯ぎしり・食いしばりが改善されていきます。
そのほかのTCHを治す簡単な方法
TCHの治療法は、リマインダー法だけではありません。ほかにも口の周りの筋肉のストレッチが有効な場合や、頬杖をつく、うつ伏せで寝るなどの生活習慣が改善されたことで、良くなる場合もあります。
虫歯や歯周病などと比べると害のなさそうなTCHですが、長期的に見ると歯や口内に深刻なダメージを引き起こします。気になる人は、まずセルフチェックをお試しください。
執筆責任者
院長 中村
日本歯科大学新潟生命歯学部卒業。一般開業医での勤務、2020年よりデンタルサロン・プレジール歯科医院長就任。
従来の歯科の考え方にはなかった「健全な歯を削らずに」得られる審美歯科がここにあります。
当クリニックを訪れてくださった方に、笑顔に自信を持っていただくことを一番に考え、対応させていただいております。