皆様、こんにちは!デンタルサロン・プレジールの歯科医師、中村です。いつも「歯医者さんがホンネで薦める審美歯科ここだけの話」をご愛読いただき、ありがとうございます。このコラムでは、毎回ひとつのテーマについて、皆様のお口の美容と健康に役立つお話をお届けしています。
今回お話ししますのは、「女性ホルモンが変化する更年期の歯周病予防」についてです。女性が一生を通じて影響を受ける女性ホルモンは、月経周期や妊娠・出産だけでなく、自律神経の調整や骨の形成、肌の張りまで、女性の体のさまざまな部分と深い関係があります。それはもちろん、口の中も例外ではありません。
そこで、更年期の女性ホルモンの減少によって口の中にどんなことが起こりうるのか、また問題の発生をどうすれば防げるのかについて、歯周病との関係を中心にご紹介したいと思います。
目次
女性ホルモンが減ると女性の体は大きく変わる
女性ホルモンには、「エストロゲン」と「プロゲステロン」の2種類があり、それぞれ別の役割を担っています。エストロゲンは、発達段階では乳房の成長や子宮の発達を促し、成熟した後は妊娠に備えて子宮内膜を厚くする、肌や髪につやを出す、骨にカルシウムを蓄えて骨を丈夫にするなど、丸みを帯びた女性らしい体の形成やその維持に関わります。8~9歳頃に卵巣から分泌が始まり、10代~30代半ば頃までは活発に分泌された後、閉経が近づく40歳を過ぎたころから徐々に分泌量が減り、50歳前後の閉経を迎えるとほとんど分泌されなくなるのが特徴です。
閉経の数年前になると、このエストロゲンの分泌量が減少するため、女性の体にさまざまな変化が起こり始めます。例えば、骨量を保持する機能が弱まるため骨粗しょう症になりやすくなる、血管の内部を作っている血管内皮の働きが弱くなり、高血圧になりやすくなるなどがその代表です。
女性ホルモンが減少すると歯がもろくなる
エストロゲン減少の影響は、口の中では唾液の分泌量が低下し、口の中が乾く「ドライマウス」の症状が出やすくなるという形で現れます。現にドライマウスになる人は、男性より女性のほうが遥かに多く、男女比率は1:3ともそれ以上ともいわれています。
ドライマウスになって困るのは、単に口の中がカサついて気持ちが悪いというだけではありません。「口の粘膜を潤す」「消化を助ける」「飲み込みを助ける」「虫歯菌によって溶かされた歯を修復する」「口の中の細菌を洗い流して口内を清潔に保つ」など、唾液は口内環境を守るために非常に大事な役目を担っています。唾液の分泌が少なくなるドライマウス状態ではこれらの働きが滞り、口内に細菌が繁殖しやすくなる結果、歯周病や虫歯にかかるリスクが上昇します。また、食べ物が飲み込みづらくなることで、食べ物や飲み物が咽喉や気管に入ってしまう「誤嚥(ごえん)」の危険性も高まってしまうのです。
エストロゲンの減少で糖尿病や骨粗しょう症のリスクも上昇
エストロゲンの減少で歯周病のリスクが上がることをご紹介しましたが、困ったことに、エストロゲンの減少は歯周病と関係の深い「糖尿病」や「骨粗しょう症」、さらに「認知症」のリスクを高めることもわかっています。
糖尿病のリスクの上昇は歯周病リスク上昇とリンクする
エストロゲンの働きは多岐にわたりますが、そのひとつとして、血圧やコレステロールを調整するとともに、血糖値を下げるホルモンである「インスリン」の効能を高め、血糖値を下げる役割があります。このため、更年期でエストロゲンの分泌が減少すると、インスリンの効きが弱くなり、血糖値が上昇して糖尿病になるリスクが高まるのです。糖尿病と歯周病は、「糖尿病を患っていると歯周病になりやすい」「歯周病になると血糖のコントロールが悪くなる」とお互いに影響を与える関係ですから、歯周病のリスクもまた上がることになります。
骨粗しょう症は歯周病の進行を早める
エストロゲンには、骨の新陳代謝の際に起こる「骨吸収」(骨が部分的に破壊・吸収される現象)を緩やかにして、骨からカルシウムが溶け出すのを抑える働きもあります。ですから、エストロゲンの減少によりその作用が弱くなると、骨密度の低下にもつながります。そのため、閉経後の女性は骨粗しょう症になりやすい傾向があり、現に骨粗しょう症の患者さんの8割以上は女性です。骨粗しょう症になると、歯を支える歯槽骨ももろくなってしまうため、歯周病の進行が早まり、歯を失うリスクが上昇することが報告されています。
認知症は歯周病により悪化する
また、エストロゲンは、認知機能とも深い関係があることがわかっています。近年の研究では、日本における認知症患者の約半数を占めるアルツハイマー型認知症の女性患者の脳では、エストロゲンの受容体が減少していることも報告されており、エストロゲンの減少は認知症のリスク上昇につながると考えられています。一方、歯周病はアルツハイマー病を悪化させるという研究結果もあります。
若いころからの歯周病予防が重要
エストロゲンの減少は、歯周病のリスクを高めるのと同時に、糖尿病や骨粗しょう症、認知症など、歯周病を患っていると症状に悪影響が出る病気にかかるリスクも高めてしまいます。そこで、女性ホルモンが減少し始める更年期には、まず歯周病にならないよう、しっかり予防することが大切です。
歯周病は、歯の表面についたプラーク(歯垢)中に含まれる細菌が出す毒素が原因で、歯茎が炎症を起こし、最終的には歯を支えている骨が溶かされてしまう病気です。そこで、まず正しいブラッシングの習慣を身に付けて、確実にプラークを落とすことが何よりの歯周病予防となります。また、よく噛まずに食べると唾液の分泌量が下がる、間食が多いと口内細菌がプラークを作る機会を増やしてしまうなど、歯周病を招きやすい生活習慣もありますので、一度生活習慣を見直してみるのも重要なことです。更年期になってから考えるのではなく、若いうちから気を付けておくと良いでしょう。
もし、歯周病になってしまったら、早めに歯科医院を受診して適切な治療を受けることが大切です。3~4ヵ月に1度など、定期的に歯科医院で定期健診を受けておけば早期発見につながりますし、歯科医院のクリーニングは家でのブラッシングでは落としきれないプラークも落とせるので、ぜひ実践してみてください。
執筆責任者
院長 中村
日本歯科大学新潟生命歯学部卒業。一般開業医での勤務、2020年よりデンタルサロン・プレジール歯科医院長就任。
従来の歯科の考え方にはなかった「健全な歯を削らずに」得られる審美歯科がここにあります。
当クリニックを訪れてくださった方に、笑顔に自信を持っていただくことを一番に考え、対応させていただいております。