皆様、こんにちは。デンタルサロン・プレジールの歯科医師、中村(なかむら)です。いつも「歯医者さんがホンネで薦める審美歯科ここだけの話」をご愛読いただき、ありがとうございます。ここでは、毎回異なるテーマで、皆様のお口や歯の健康や美容に関する情報をお届けしています。
ところで、皆様は「オーラルフレイル」という言葉をご存じでしょうか? オーラルは口腔、フレイルは虚弱という意味です。合わせて「口腔機能の低下」という意味となり、老化による全身の衰えの始まりを示す症状として、注目を集めています。そこで、今回のコラムでは、オーラルフレイルの諸症状をはじめ、なぜ発生するのか、どのような予防方法があるのかをまとめてご紹介。口腔機能の衰えを感じている方はもちろん、今から対策を打っておきたい方もぜひ覚えていただきたいと思います。
目次
オーラルフレイルとは
2012年の日本老年歯科医学会で、高齢者の口腔機能の低下をわかりやすく伝えるためのワークショップが開かれ、2013年に厚生労働省の老人保健健康増進等事業の報告書で、初めて「オーラルフレイル」という言葉が提言されました。
それにより、歯周病や自身の歯が減り始める「前フレイル期」、口腔機能低下の兆候が見られる「オーラルフレイル期」、骨格筋量の低下や運動器症候群から栄養障害に陥る「サルコ・ロコモ期」を経て、摂食嚥下機能低下や咀嚼機能不全を伴い、虚弱や要介護状態などに至る「フレイル期」の4つのフェーズが定義され、同時にオーラルフレイル予防への取組みが始まったのです。
オーラルフレイルの具体的な症状
オーラルフレイルになると、どのような症状が現れるのでしょうか。フェーズごとにまとめてみました。
・前フレイル期の症状
多くの人は、年を重ねると生活の行動範囲が狭くなり、活動量が低下するものです。その結果、さまざまなことへの意欲も下がり、口腔への関心も低くなって、歯周病や虫歯などの問題が発生。歯を失うケースも増えてしまいます。この状態を「社会性/心のフレイル期」といいます。
・オーラルフレイル期の症状
歯周病や虫歯などによって歯を失うと、滑舌が悪くなることはもちろん、食事中にむせたり、食べこぼしが増えたりしてしまいます。また、噛めない(噛みきれない)食品も増えるため、食欲が下がり、食べられる物の種類が減っていきます。この段階は「栄養面のフレイル期」と呼ばれます。
・サルコ・ロコモ期の症状
さらに段階が進むと、噛む力が下がるほか、舌を動かす力の低下も見られるようになります。サルコ・ロコモとは、加齢により筋肉量が減少し、全身の筋力が低下するサルコペニアと、移動機能の低下をきたすロコモティブシンドロームを合わせた言葉です。同様に、食べる量も減るため、体に必要な栄養が足りなくなって代謝量が低下。口腔だけでなく全身に問題が現れるため「身体面のフレイル期」と定義されています。
・フレイル期の症状
より症状が悪化すると、摂食嚥下機能低下や咀嚼機能不全が起きるようになり、運動・栄養障害を引き起こすようになります。要介護の状況になることもある「重度フレイル期」です。
今すぐできるオーラルフレイルを見抜く方法
ご自分やご家族がオーラルフレイルになっているかは、次の方法(自覚症状の有無)でチェックすることができます。
・奥歯でしっかり噛めない
・噛むと痛みや不快感がある
・食べこぼしがある
・むせやすい
・口内が乾燥しやすい
・滑舌が悪くなっている
ある程度お年を召した方で、上記の症状が見られる場合は、オーラルフレイルの可能性がありますので、なるべく早めに歯科医院を受診してください。オーラルフレイルと診断された場合は、口腔ケアや口腔リハビリを通じて、早期改善や症状の進行を緩めるようにしましょう。
オーラルフレイルを予防する「パタカラ体操」で健康長寿!
いつまでも健康で長生きするためには、次の3つに気を付けると良いとされています。
(1)しっかり栄養をとるために歯や口腔機能を維持する
(2)運動をしたり、日頃から体を動かしたりする
(3)ボランティアなどで社会に参加したり、余暇を充実させたりする
特に、(1)の歯や口腔機能の維持は重要で、ご自身の歯が残っている本数が多いほど寿命が長く、口腔機能を維持している人ほど認知症リスクが小さいなどの報告もあるようです。
噛むこと(咀嚼)と嚥下(飲み込むこと)を良い状態に保つには、口の周りや首などの筋力を維持することが大切になります。これについて、日本歯科衛生士会では、「パ・タ・カ・ラ」と大きな声で発音する「パタカラ体操」を推進しています。
<パタカラ体操>
パ…唇を閉じたり開いたりして、唇の筋力を鍛えます。食べこぼしの予防にも効果的です。
タ…舌の前方を持ち上げる訓練です。食べ物を押しつぶしたり、飲み込みやすくしたりできます。
カ…喉の奥に力を入れて、発音するときに閉めます。食べ物をスムーズに喉の奥に送る訓練です。
ラ…舌の先を上顎の前歯の裏につける動きが、口内で食べ物を動かす舌の動きを鍛えます。
このパタカラ体操を継続して行うことで、噛むことや飲み込む力を維持できるほか、唾液の分泌を良くしたり、発音がはっきりする、表情が豊かになるといった効果も期待できます。
口の体操も併用し、口内乾燥の防止にも務めよう
パタカラ体操だけでは飽きてしまいそうですので、次のような体操も取り入れると良いでしょう。いずれも食事の前の準備運動として実行するのが効果的です。
<口の周囲の体操>
1. 口を大きく「あー」と開きます。
2. 続いて「いー」としっかり伸ばします。
3. 最後に「うー」とすぼめてください。
<舌の体操>
1. 舌を左右に動かします。
2. 次に舌を前後に動かします。
3. 仕上げに、舌を上下に動かしてください。
<頬の体操>
1. 右の頬をふくらませます。
2. 左の頬をふくらませます。
3. ラストは両方の頬をすぼめてください。
<肩と首の体操>
1. 両肩を上げます。
2. 上げていた両肩を下げます。
3. 両肩を回します(片方ずつでも)。
4. 首を左右に傾けます。
5. 顔を左右に向けます。
いずれも簡単な動作ですから、特にオーラルフレイルの症状がない方も、今すぐ取り組むことができるでしょう。また、唾液が少なくなったと感じている方は、唾液腺(耳の下にある耳下腺・顎骨の付け根あたりにある顎下腺・舌の根元付近にある舌下腺)をマッサージすると効果的です。
オーラルフレイルは、誰にでも起こる可能性がありますが、自覚症状の有無による早期発見や口腔機能を維持する体操などを行うことで、予防や症状の進行を緩めることができます。ご自身の歯とお口の健康は、長く楽しく暮らしていくために欠かせない要素です。ぜひ普段から意識して過ごすようにしてください。
執筆責任者
院長 中村
日本歯科大学新潟生命歯学部卒業。一般開業医での勤務、2020年よりデンタルサロン・プレジール歯科医院長就任。
従来の歯科の考え方にはなかった「健全な歯を削らずに」得られる審美歯科がここにあります。
当クリニックを訪れてくださった方に、笑顔に自信を持っていただくことを一番に考え、対応させていただいております。