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iPS細胞で歯の再生が叶う?乳歯や親知らずはiPS細胞の素だった

2024.10.08

その他

皆様、こんにちは! デンタルサロン・プレジールの歯科医師、中村です。いつも「歯医者さんがホンネで薦める審美歯科ここだけの話」をご愛読いただき、ありがとうございます。このコラムでは、毎回ひとつのテーマについて、皆様のお口の健康と美容に役立つお話をしています。

さて、今回ご紹介したいのは「再生医療の世界で、今、乳歯や親知らずが注目されている訳」です。
皆様は、小さいころに抜けた乳歯を屋根の上や縁の下に投げた覚えはあるでしょうか? 自宅で歯が抜けたとき、あとに生える永久歯が丈夫に育つよう願いを込めて、投げる風習がありました(今も戸建てにお住まいの方のご家庭では行われているかもしれません)。また、これまで歯科医院で抜いた歯は、たとえ虫歯などの問題がなくても、特に利用されることなく捨てられるのが常でした。
しかし近年、再生医療の研究が進むにつれ、歯の中にある「歯髄細胞」から採れる「幹細胞」が、再生医療を行う上で非常に有用であることがわかり、抜いた歯を保存して再生医療に役立てる取組みが始まっています。歯が持っている意外な可能性をご紹介しましょう。

再生医療のやり方は「iPS細胞」と「体性幹細胞」の2種類

再生医療を一言で言うなら、細胞や組織を再生し、失われた体の一部や機能の回復を目指す治療です。現在、そのやり方は大きく分けて2つあります。その1つが「iPS細胞(またはES細胞)」を使う方法、もう1つが「体性幹細胞」を使う方法です。

iPS細胞

iPS細胞とは、どんな細胞にも変化できる万能細胞で、皮膚の細胞など体細胞に「細胞を初期化する機能を持つ」4つの遺伝子を組み込んで培養することで、人工的に作り出されるものです。

体性幹細胞

一方、体性幹細胞は、元々生体のさまざまな組織に備わっている、特定の細胞に分化する力を持った細胞のことで、これらを使う再生医療を行うには、「iPS細胞または体性幹細胞を特定の組織や器官に分化させる技術」と「治療に使う良質なiPS細胞や体性幹細胞を数多く培養・保存しておく技術」が重要となります。

両方とも患者さんへの負担が大きい

どちらも現在進行形でさまざまな研究が行われていますが、体性幹細胞については臍帯血や骨髄から採取するのがほとんどで、患者さんへの負担が大きいことが問題となっていました。
この問題のひとつの解決方法として注目されているのが、抜けた歯の歯髄細胞から幹細胞を採る方法なのです。

「歯髄細胞」とは?

歯は、一番外側を硬いエナメル質、そのすぐ内側を象牙質、中心に神経である歯髄がある3重構造になっています。歯髄細胞とは、その歯髄のことを指します。これがなぜ再生治療で注目されるかというと、親知らずや乳歯など抜けた歯を利用して「良質な幹細胞を採取できる」からにほかなりません。そのほかの幹細胞採取方法とは異なり、歯髄細胞からの幹細胞採取には次のようなメリットがあります。

採取しやすく機会も多い

現在行われている幹細胞による再生治療には、骨髄液に含まれる造血幹細胞を使う方法、臍帯血に含まれる造血幹細胞を使う方法などがありますが、骨髄液の採取は体への負担が大きいですし、臍帯血はそもそも出産時しか採取できません。その点、歯髄細胞内幹細胞は抜歯した歯から採取できるので、体への負担が少なくて済み、採取のチャンスも多くあります。

細胞の増殖能力が高い

幹細胞を再生医療に使うには、細胞が若く、高い増殖能力を持っているほど適しています。その点、抜歯の対象になることが多い乳歯や親知らずは、この条件にぴったり。乳歯が抜けた段階で幹細胞を採って培養・凍結しておくのがベストですが、親知らずも人の体の中で最後に作られる器官だけに細胞は若く、十分高い増殖能力を持っています。

遺伝子が損傷しにくく、安全で良質な幹細胞を確保できる

硬い歯に守られた歯髄細胞は紫外線など外界からの刺激が少ないため、遺伝子の損傷が少なく、がんになりにくいという特徴があります。歯髄細胞を使うことで、安全で良質な幹細胞を確保することができるのです。

保存した親知らずや乳歯はどう役立つの?

歯髄細胞から採った幹細胞を培養・冷凍保存しておく施設として、2009年から「歯髄細胞バンク」という取組みも始まりました。これは「骨髄バンク」の歯髄細胞版のようなもので、全国から抜歯された歯を集め、歯髄細胞バンクで歯髄を取り出して幹細胞を培養・冷凍保存しておき、いざ再生治療が必要になったときに役立てようというものです。
再生医療に使う幹細胞は、必ずしも自分のものである必要はなく、骨髄移植や輸血と同じように型が合えば他人のものでも使えるため、提供者本人のみならず、多くの再生治療での利用が期待されています。
現在は、まだ歯髄細胞由来の幹細胞を使った再生治療法は確立していませんが、将来的には脳梗塞や脊髄損傷の治療で活躍する見込みです。

なお、いくら歯科医院で抜いた歯でも、虫歯で取らざるをえなかった神経や、治療の一環として抜歯した歯は保存の対象にはなりません。子供の乳歯や健康的な親知らず、矯正などで抜いた健康な歯で、概ね30歳以下の人の物だけが対象となります。

歯髄細胞からは良質なiPS細胞を作ることもできる

歯髄細胞は、良質なiPS細胞を作るのに役立つこともわかっています。iPS細胞は、体細胞に特定の遺伝子を加えて培養することでできますが、素材となる体細胞は何でもいいというわけにはいきません。体細胞の遺伝子のダメージが大きいと、腫瘍ができやすくなってしまうからです。
その点、硬い歯に守られた歯髄はダメージが少なく、がんになりにくい部分でもあるので、良質なiPS細胞を作ることができます。iPS細胞を使った再生治療についても研究が進められており、軟骨再生やパーキンソン病、脳梗塞、心不全、アルツハイマー病、白内障、歯周病など、さまざまな病気治療への応用が試みられているほか、歯の再生治療も実用化に向けて研究が進められています。

歯髄細胞バンクと提携している歯科医院を探そう

以前は捨てていた乳歯や親知らずも、再生治療が始まったことで「良質な幹細胞やiPS細胞を作るのに欠かせない資源」として新たな役割を得ています。歯髄細胞バンクでの歯の保存は、歯科医院によっては提携機関を紹介してくれるところもありますので、興味がある方は一度歯科医院で尋ねてみてはいかがでしょうか。

  • コラムに掲載されている施術などは、必ずしも当院でご提供してるサービスに限りませんので、ご了承ください。