皆様、こんにちは! デンタルサロン・プレジールの歯科医師、中村です。いつも「歯医者さんがホンネで薦める審美歯科ここだけの話」をご愛読いただき、ありがとうございます。このコラムでは、毎回皆様のお口の健康と美容に役立ちそうなテーマを紹介しています。
さて、今回のテーマは「歯列矯正と健康保険」についてです。以前の記事でも簡単にふれましたが、今回は健康保険が適用される歯列矯正の具体的な内容に踏み込んでみました。
数ある歯科治療の中でも非常に高額なものです。全額自腹で支払えば数十万円から100万円以上の出費となりますから、価格がネックとなり、治療をためらっている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
せめて「健康保険が使えれば…」と思いますが、残念ながら審美目的の歯列矯正は、基本的に健康保険の適用対象になりません。ただし、すべての矯正治療が健康保険の対象外なのではなく、症状によっては保険が適用される場合もあります。そこで今回は、どのような症状であれば保険が適用されるのか、治療の内容や治療費にもふれながらお話ししたいと思います。
目次
審美目的の歯列矯正は基本的に健康保険適用外
繰り返しになりますが、現行の健康保険制度のもとでは、審美目的の歯列矯正は大人・子供を問わず、基本的に健康保険の適用対象にはなりません。そもそも健康保険制度は、病気やケガをした場合に安心して医療を受けられるように、加入者全員で医療費負担を支え合うためのものです。審美目的の歯列矯正は「病気」にも「ケガ」にも入らないため、健康保険がカバーすべき範囲ではないというのがその理由です。
しかしこの原則は、逆に言えば「病気の治療に歯列矯正が必要」な場合など、歯列矯正が「なくてはならない治療」と認められる場合は、健康保険が適用されるということでもあります。具体的に、次のような治療のために行われる歯列矯正は、健康保険が適用される場合があります。
・外科手術を伴う顎変形症
・先天性欠如歯
・国が定めた先天性疾患
歯列矯正が健康保険の対象となる3つの例
歯列矯正に健康保険が適用される症例について、詳しくご紹介しましょう。
外科手術を伴う顎変形症
出っ歯や受け口、顎の骨が極端に小さいなど、上顎と下顎の骨の位置や形、バランス、大きさなどが原因で顔が変形している状態を「顎変形症」といい、歯列矯正だけでは十分な噛み合わせの改善が期待できません。治療には、歯列矯正と外科手術の両方が必要となりますので、健康保険の対象となります。
治療方法は、まず検査・診断・治療の説明を行い、1年~1年半ほど術前歯列矯正を行うのが一般的です。外科手術自体は約1~2週間の入院となり、退院後に術後矯正を約半年~1年半、最後に歯の後戻りを防ぐためにリテーナー(歯を安定させる装置)を約2年間つけます。
治療費用は状態により異なるので一概にはいえませんが、保険適用の場合で40万~50万円、すべて自費で行った場合は200万円前後が目安です。
先天性欠如歯
「先天性欠如歯」とは、本来乳歯の下に用意されているはずの永久歯がないために永久歯が生えず、歯の本数が通常より少なくなってしまうことです。遺伝や妊娠中の栄養不足などが原因といわれていますが、まだはっきりとは解明されていません。日本小児歯科学会が2007~2008年にかけて行った全国調査「永久歯先天欠如の発生頻度に関する調査研究」では、約10人に1人の割合で永久歯の先天性欠如が見つかっています(男子が9.1%、女子は11.0%)。
親知らずを除いた6本以上に歯の先天性欠如があるなら、治療のために行う歯列矯正に健康保険が適用されます。治療法は、下記のような流れとなります。
1. 残っている乳歯をできる限り長く持たせる処置をする。
2. 生えてくる永久歯がすべて生え揃った段階で、歯列矯正により噛み合わせを調整する。
3. 乳歯が抜け始めたら、抜けた箇所に人工の歯を入れ、歯列矯正により噛み合わせを調整する。
国が定めた先天性疾患
歯の先天性欠如以外でも、唇顎口蓋裂(しんがくこうがいれつ)やダウン症候群、外胚葉異形成症など、厚生労働大臣が定める先天性の疾患にあたる場合は、保険診療で歯列矯正を受けることができます。該当する疾患の一覧は、「日本矯正歯科学会」のサイトをご参照ください。
治療方法や治療費は、それぞれの疾患により異なるので一概にはいえませんが、歯科以外のさまざまな診療科と連携した長期の治療が必要になることが多くなります。治療費も高額になりがちですが、地方自治体が赤ちゃんの医療費を補助する「乳幼児医療費助成制度」や、特定の疾患を抱える患者さんの治療に対して、国がその治療費の一部を負担する「自立支援医療制度」などが使える場合もあります。
なお、いずれのケースでも健康保険の適用を受けるには、例えば顎変形症なら「顎口腔機能診断施設」というように、国が指定する医療機関で治療を受けることが必要です。それぞれの症状の指定医療機関は、地域の保健所や地方自治体の福祉課に問い合わせると教えてもらえます。
そのほかの歯科治療の保険適用について<
歯列矯正以外の歯科治療ですが、「病気やケガをした場合に安心して医療を受けられるように」という保険制度の趣旨から、ホワイトニングや歯のクリーニング(歯周病や虫歯治療の一環として行われるものは除く)には、保険の適用はなく自由診療のみとなります。
また、虫歯治療は健康保険の対象ですが、治療法や詰め物などの素材によっては、保険の適用外となる場合があります。これは、見た目の美しさに配慮した素材については健康保険が適用されないためで、例えば見た目にも自然なオールセラミックの詰め物や義歯には、健康保険は適用されません。治療を受ける際には注意してください。
まとめ
歯列矯正は、審美目的の場合は健康保険の適用はありませんが、先天性の疾患や先天性の永久歯の欠如、歯列矯正とともに外科手術も必要な症状の場合は、健康保険の対象となる場合があります。歯科医師に症状を話すと保険が使えることがわかる場合もありますので、歯列矯正に関するお悩みは、ぜひ一度矯正歯科で相談するようにしてください。
執筆責任者
院長 中村
日本歯科大学新潟生命歯学部卒業。一般開業医での勤務、2020年よりデンタルサロン・プレジール歯科医院長就任。
従来の歯科の考え方にはなかった「健全な歯を削らずに」得られる審美歯科がここにあります。
当クリニックを訪れてくださった方に、笑顔に自信を持っていただくことを一番に考え、対応させていただいております。