こんにちは! デンタルサロン・プレジールの歯科医師、中村です。いつも「歯医者さんがホンネで薦める審美歯科ここだけの話」をお読みいただき、ありがとうございます。
さて、このコラムは審美歯科に関する話題を中心にお話しさせていただいておりますが、歯や口元の美しさを維持・向上させるためには、何よりもまず、歯や口元の健康が大切です。
そこで今回は、歯に関する基本的な知識をおさらいしながら、「再石灰化」という歯の健康を守るために最も大切な作用について、皆様のご理解を深めていただければと思います。
歯は毎日生まれ変わっている。脱灰と再石灰化のメカニズムとは?
歯も人間の体の一部であり、「毎日少しずつ生まれ変わっている」ということをご存じでしょうか?
私たちの歯は、毎日「脱灰(だっかい)」と「再石灰化」を繰り返しています。
私たちが食事をすると、そのかすの一部が口腔内に残ります。その食べかすは口内の細菌によって分解され、その際に酸を放出します。
歯の表面には、厚さ2ミリほどの「エナメル質」という硬い層があるのですが、エナメル質に酸が触れると、酸は歯からカルシウムやリン酸などのミネラルをイオンの形で奪っていきます。これが「脱灰」という現象です。
脱灰が続くと、エナメル質はミネラルを奪われ続けてスカスカの状態になってしまい、白い斑点が見えたり、歯の表面がザラザラしてきたりします。これは虫歯の前兆であり、この状態を放置するとついに歯に穴が開いてしまいます。これが、いわゆる「虫歯(齲蝕うしょく)」です。
でも、私たちの体は非常に良くできていて、一方的に脱灰が続くだけでなく、唾液によって歯にミネラル分を補給する自然治癒力を持っています。これを「再石灰化」といいます。
正常なサイクルでは、歯は脱灰と再石灰化を繰り返して健康な状態を保ち続けます。
このため、まだ虫歯になりきっていない(エナメル質に穴が開いていない)初期虫歯の場合、適切なオーラルケアを続けていれば、自然治癒できる可能性があります。
しかし、ブラッシングやフロッシング(デンタルフロスなどによる歯の隙間・付け根のケア)を怠ると、歯垢(プラーク)がべっとりと歯にへばりついてしまいます。エナメル質の再石灰化を促す唾液が、歯面に触れることが出来ないため、脱灰が進んでしまいます。
象牙質とは?
さて、私たちの歯の表面は、硬いエナメル質で覆われているというお話をしました。
そして、そのエナメル質の中には、エナメル質よりも柔らかい「象牙質」という部分があります。
象牙質は、名前のとおり象牙に似たクリーム色を帯びた黄色をしていて、歯の大部分を占めています。
象牙質はおもに「ハイドロキシアパタイト」という成分とコラーゲン繊維とたんぱく質からなり、同じ歯の一部でありながら、エナメル質とはまったく違う組成になっています。
実は、歯全体がエナメル質でできているとすると、硬くてもろいエナメル質は、強い衝撃を受けた際に割れてしまいます。しかし、象牙質はエナメル質より柔らかく、衝撃を受けても割れにくいため、内側からエナメル質を支えることができるのです。人の体は、本当によくできているものだと感心させられませんか?
しかし、話を虫歯だけに絞ると、象牙質はエナメル質よりも非常に弱いのです。
まず、虫歯菌が象牙質に触れるときは、すでにエナメル質に穴が開いた状態ということになります。
虫歯菌は口腔内を自由に漂っているのではなく、「歯垢」の中にビッシリと生息しています。
歯垢は単なる食べかすの塊ではなく、食べかすをさまざまな細菌類が食べ、ベタベタとした物質に変化しています。これは「バイオフィルム」と呼ばれる菌の塊で、1グラムの歯垢の中には、なんと1,000億もの細菌が生息しているといわれています。
エナメル質に開いた穴に歯垢が入り込むことを防ぐのは非常に困難で、穴の中に詰まった歯垢をブラッシングなどですべてかき出すことはできません。虫歯菌は歯垢の中でいっそう勢いを得て、エナメル質よりも柔らかい象牙質を一気に掘り進めてしまいます。このため、診察してみると、歯の表面に開いた穴よりもはるかに大きい穴が象牙質内に広がっていたということも珍しくありません。
象牙質の奥には、神経と血管が通る「歯髄」という部分があります。象牙質がある程度のダメージを受けると、歯がしみる・痛むといった虫歯の自覚症状が現れます。このころにはすでに手遅れで、再石灰化による自然治癒は期待できず、歯科医による治療が必要となってしまうのです。
ところで、「歯が折れた」「歯が欠けた」などのトラブルが発生した際、私たち歯科医は「痛みがなくてもすぐに受診を!」と呼びかけます。
もちろん、前歯の目立つ部分にそのようなトラブルが発生した場合は、大半の方が受診されるでしょう。しかし、前歯以外の歯の場合、「痛みもないし、目立たないし…」と、つい治療を先延ばしにしているうちに忘れてしまうといったことがあります。
ところが、歯が折れたり欠けたりした場合、柔らかい象牙質がむき出しになり、非常に虫歯になりやすい状態で放置されてしまうことになるのです。
ここまでこのコラムをお読みくださった皆様であれば、それがどんなに危険な状態なのか、よくわかっていただけるのではないかと思います。
象牙質も生きている! 再生できる! ただし…
実は、虫歯菌に侵された象牙質も、神経が生きている部分なら一定の条件下で再生することがわかっています。(再生した象牙質を第2象牙質と言います。)その性質を活かし、初期の象牙質の虫歯であれば、再生させることができます。
とはいえ、虫歯に侵された部分をいっさい削ることなく、また、何の詰め物もせずに歯を元の状態に戻すことは、現在の歯科医療技術ではほぼ不可能です。
このため、普段から歯のブラッシングやフロッシングで十分なメンテナンスをして、できるだけ完全に歯垢を除去し、定期的にPMTC(歯科医師や歯科衛生士による専門的な歯のクリーニング)を受けることで虫歯を予防することと、毎日のメンテナンスの際に初期虫歯の兆候をいち早く発見することが非常に重要です。
自然で健康な歯の美しさを第一に!
このコラムでは、私たちの歯は脱灰と再石灰化によって毎日少しずつ生まれ変わっていること、そして脱灰と再石灰化のバランスが崩れると虫歯になってしまうこと、虫歯がエナメル質に穴を開けて象牙質にまで到達してしまうと、もう自然治癒は期待できないことなどを説明してきました。
もちろん、当院では虫歯が進行してしまった・虫歯治療のために大きく歯を削ったという状態でも、セラミッククラウンなどの施術で、自分の自然な歯と見分けがつかないレベルの審美的な美しさを取り戻していただくことが可能です。
しかし、できればそういう状態になることは避けていただき、多くの方々に自然な歯の美しさを保っていただけることを、歯科医師として強く願っています。
そのためにはまず、「なぜ虫歯が発生するのか?」「歯垢を放置しておくことがどんなに怖いか」といった歯の基礎知識を理解した上で、毎日のオーラルケアや歯のメンテナンスを大切にしていただければと思います。
執筆責任者
院長 中村
日本歯科大学新潟生命歯学部卒業。一般開業医での勤務、2020年よりデンタルサロン・プレジール歯科医院長就任。
従来の歯科の考え方にはなかった「健全な歯を削らずに」得られる審美歯科がここにあります。
当クリニックを訪れてくださった方に、笑顔に自信を持っていただくことを一番に考え、対応させていただいております。