皆様、こんにちは! デンタルサロン・プレジールの歯科医師、中村です。いつも「歯医者さんがホンネで薦める審美歯科ここだけの話」をご愛読いただき、ありがとうございます。このコラムでは、毎回テーマに沿って、皆様のお口の健康と美容に役立つお話をお届けしています。
さて、今回ご紹介したいのは、「妊娠中の歯周病予防の重要性」についてです。「歯周病は口の中のことなのに、妊娠と何の関係があるの?」と思われるかもしれませんが、一般的に妊娠中は歯周病が悪化しやすいといわれており、妊婦さんが歯周病を患っている場合、低体重児出産や早産のリスクが高まるそうです。
しかし、いったいなぜそのようなことが起きてしまうのでしょうか。ここでは、妊娠中の体の変化と歯周病の関連性、妊娠中に心掛けたいプラークコントロールについてお話ししたいと思います。
目次
歯周病菌は女性ホルモンが好き!?
歯周病とは、プラーク(歯垢)の中に棲む細菌によって歯茎に炎症が起きる病気です。その症状は、大きく2段階に分けられており、初期段階にあたる「歯肉炎」では、歯茎が炎症を起こして赤く腫れたり、出血したりします。さらに、症状が進むと、歯を支える歯槽骨にまで炎症が及ぶ「歯周炎」と呼ばれる状態になり、歯を支える骨が徐々に溶かされて、最終的には歯が抜けてしまうこともあります。
このように、歯周病は最終的には歯を失う可能性もある怖い病気ですが、歯周病を引き起こす細菌は1種類ではなく、10種類以上いることがわかっています。その中のひとつに「P.i.菌(Prevotella intermedia)」という菌がいるのですが、これは女性ホルモンの一種である「卵胞ホルモン(エストロゲン)」を栄養源として増殖するのが特徴です。男性よりも女性のほうが歯周病にかかりやすいのは、この歯周病菌が増えやすいことが原因であるといわれています。
妊娠中は歯周病が悪化しやすいのはなぜ?
歯周病のメカニズムがわかったところで、今度は妊娠中の女性の体で、いったい何が起こっているのかを見ていきましょう。
女性の体に大きな影響を与える女性ホルモンにはいろいろな種類がありますが、特に重要なものとして、卵巣から分泌される「卵胞ホルモン(エストロゲン)」と「黄体ホルモン(プロゲステロン)」が挙げられます。この2つは普段から、月経周期に合わせて増えたり減ったりしていますが、その増減は体にもさまざまな影響を及ぼしているのです。例えば、エストロゲンが増える月経前の時期には、エストロゲンを栄養源とする歯周病菌も増えるため、歯茎がむずむずとうずいたり、腫れたりする人も珍しくありません。
妊娠期は、これら女性ホルモンの分泌量は月経時より増え、普段の10~30倍になるといわれています。また、エストロゲンと同様に分泌が増えるプロゲステロンには、炎症のもとを刺激するという特性があるため、ダブル効果で歯周病が悪化しやすい状態となってしまうのです。
妊娠中の歯周病の影響
妊娠性歯肉炎
妊娠期間中にかかる歯周病は「妊娠性歯肉炎」と呼ばれ、その典型的な症状は、歯茎が赤く腫れ上がったり、出血したりすることです。妊娠中期から後期にかけて起こりやすくなり、そのままにしておくと出産後に本格的な歯周病になる場合もあります。プラークがない清潔な口内では起こらない、万が一怒ってしまっても軽度で済むので、妊娠中のプラークコントロールには特に気をつけます。
低体重児の出産や早産のリスク
歯周病の全身への影響について研究が進み、妊娠中の女性が歯周病にかかっている場合、低体重児の出産や早産のリスクが高まることがわかってきました。
低体重児出産や早産となるリスクは、喫煙や飲酒、高齢出産など、ほかの要素に比べて何倍も高く、一説には歯周病にかかっている妊婦さんは、そうでない妊婦さんに比べ、低体重出産や早産になるリスクが7~8倍になるともいわれています。その理由は完全には明らかになっていませんが、口の中の歯周病菌が血管に入り、胎盤を通して胎児に直接感染するためではないかという説や、歯周病の進行により作られる物質「サイトカイン」が血中に入ると、出産準備ができたと誤解して、陣痛や子宮の収縮を促すためではないかとする説があります。
妊娠性エプーリス
妊娠性歯肉炎とは別に、まれにですが「妊娠性エプーリス」という良性腫瘍ができる場合もあります。これも女性ホルモンの影響によるもので、分娩後に自然消滅することがほとんどですが、歯周病と見分けにくい場合がありますので注意が必要です。
子供への歯周病感染
歯周病は口内の細菌による感染症です。原因となる細菌は唾液を介し、人から人へ移るため、歯周病にかかっている人とのキスや同じ食器で食事をすることで感染します。
子どもの口内には歯周病の原因となる細菌は存在しませんが、歯周病の家族から移ってしまう可能性はあります。子どもは大人に比べて歯周病にかかりにくとされていますが、子供へ感染させないためにも適切な歯周病治療とプラークコントロールが大切です。
妊娠中の歯周病予防にはプラークコントロールが重要
では、このような妊娠中の歯周病を予防するためには、いったいどうすれば良いのでしょうか。
答えはシンプルで、歯周病はたとえどんなに女性ホルモンの分泌が多くても、細菌の棲み家であるプラーク(細菌が出すネバネバした物質。歯垢のこと)が口の中になければ起こりませんし、万が一起こったとしても軽度で済みます。つまり、妊娠中の歯周病予防には、歯の表面についた歯垢をしっかり除去する「プラークコントロール」が何より大切です。
プラークの除去は毎日のブラッシングが基本ですが、つわりがひどいときは、歯ブラシを口に入れただけで吐き気を感じてしまう場合もありますし、うまく歯磨きができないことも珍しくありません。そのようなときは、まずはデンタルリンスなどを使ってうがいをし、気分が良くなるのを待ってから磨くといいでしょう。ヘッドの小さい歯ブラシを使うと吐き気を催しにくいので、子供用の小さい歯ブラシを使うのもおすすめです。
さらに余裕があれば、歯ブラシに加えてデンタルフロスも併用することで、より効果的にプラークを落とすことができます。電動歯ブラシを使ってみるのもいいでしょう。
妊娠中は、つわりによる胃液の逆流で口の中が酸性になりやすく、虫歯ができやすい時期でもあります。生まれてくる赤ちゃんのためにも自分のためにも、セルフケアだけでなく、必ず妊婦歯科健診を受診するようにしてください。
妊娠中はプラークの除去を確実に行い、歯周病の予防に努めよう
妊娠中は、女性ホルモンが大量に分泌されるため、女性ホルモンを栄養分とする歯周病菌が増殖しやすく、歯周病になりやすい状態になっています。しかし、妊娠中の歯周病は、低体重児出産や早産のリスクが高まってしまう危険なものです。
丁寧なブラッシングを心掛け、毎日確実にプラークを除去することが何よりの予防となりますので、日頃から実践してみてください。
執筆責任者
院長 中村
日本歯科大学新潟生命歯学部卒業。一般開業医での勤務、2020年よりデンタルサロン・プレジール歯科医院長就任。
従来の歯科の考え方にはなかった「健全な歯を削らずに」得られる審美歯科がここにあります。
当クリニックを訪れてくださった方に、笑顔に自信を持っていただくことを一番に考え、対応させていただいております。