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妊婦の歯周病は早産・低体重児出産のリスクを高めます!

2016.06.21

歯周病

こんにちは! デンタルサロン・プレジールの歯科医師、中村です。いつも「歯医者さんがホンネで薦める審美歯科ココだけの話」をお読みくださり、ありがとうございます。

さて、今回は審美歯科というテーマから少し離れて、「妊婦の方が歯周病にかかると、早産や低体重児出産のリスクが高まる」というお話をしたいと思います。
現在妊娠中の方はもちろん、妊活中の方や、将来出産したいとお考えの女性の皆様に、ぜひ知っておいていただきたい事柄です。

また、これを機に「予防歯科」(虫歯や歯周病になってから治療するのではなく、日頃からのお口のケアを大切にし、虫歯や歯周病を積極的に予防しようという考え方)についての理解を深めていただければと思います。

早産と低体重児出産について

早産とは、妊娠36週6日以前の出産をいいます。正期産に比較して早期に出産した場合、赤ちゃんの体重は軽く、新生児医療を必要とすることもしばしばあります。また、あまりに小さく産まれた赤ちゃんには重篤な障害が現れる可能性があり、できるだけ早産にならないよう、適切な診断や予防が必要になります。

一方、低体重児(低出生体重児)とは、生まれたときの体重が2,500g未満の赤ちゃんのことです。早産によって低体重児出産になることもありますが、妊娠期間が十分でも、子宮内胎児発育不全などの影響で、赤ちゃんが十分成長しないまま出産を迎える場合もあります。

厚生労働省の資料「母子保健の現状」によれば、日本の出生数は減少傾向にあるのに対し、低出生体重児の割合は増加しています。この資料によれば、2009年の出生数が約107万人であったのに対し、そのおよそ9.6%にあたる赤ちゃんが低出生体重児でした。

現代は新生児医療が進歩しているため、超低出生体重児(生まれたときの体重が1,000g未満の赤ちゃん)の命も救えるケースが多いのですが、それでもあまりに赤ちゃんが小さい場合、免疫力が弱かったり、重度の感染症や合併症を起こしやすかったりといった心配があるため、手厚いサポートが必要です。

歯周病と早産・低体重児出産の関係

早産や低体重児出産には前置胎盤や子宮頚管無力症、高齢出産など母胎が抱える疾患や問題が影響していることがわかっています。また、細菌性膣炎などの感染症が原因となるケースも見られます。さらに、母親の喫煙や飲酒といった生活習慣や疲労・ストレスなども無関係ではないようです。

しかし、1996年、S offenbacherらがアメリカ歯周病学会(AAP)の学会誌に発表した「Periodontal Infection as a Possible Risk Factor for Preterm Low Birth」という論文が大きな注目を集めました。

この論文には、妊娠している女性が何らかの歯周病にかかっている場合、早産や低体重児出産のリスクはなんと7倍にも跳ね上がると書かれています。これは喫煙や飲酒、高齢出産などよりもはるかに高い数値です。

日本でも2003年に鹿児島大学などで同様の調査が行われましたが、やはり歯周病と早産・切迫早産とのあいだには因果関係が認められました。

歯周病と早産・低体重児出産とのあいだにどのような関連性があるのか、そのメカニズムはまだ完全に解明されたわけではありません。しかし、歯周病菌によって口腔内で炎症が発生する際、サイトカインや、白血球の活性化、プロスタグランジンなど痛みによって生じる炎症性物質が多く放出され、それによって陣痛が早くなり、結果的に早産や低体重児出産が増えるのではないかという考え方が有力です。また、胎盤などの出産に関わる器官が歯周病原細菌に感染することも、早産・低体重児出産に影響するのではないかと考えられています。

妊娠に気付いた時点で虫歯や歯周病にかかっていた場合は、早急に歯科医師に相談し、治療をどうするか医師の意見を聞きましょう。
場合によっては本格的な治療を延期するなどして、応急処置によって炎症を抑えるだけでも、おなかの赤ちゃんへの影響を最小限にすることができます。
また、虫歯治療も、安定期にさしかかれば局所麻酔による治療が可能になります。

妊娠中は歯周病にかかりやすくなる?

妊娠中の女性は、女性ホルモンの関係で歯肉炎にかかりやすくなるといわれています。また、つわりにより安定した量の食事ができなくなるため、少しずつの食事を断続的にするしかなくなる、または嘔吐によって口の中が酸性に傾く。これらのことが、口腔内の衛生に悪影響を与え、歯周病にかかりやすい状態になってしまいます。

「歯磨きをしようと思っても、歯ブラシを口に入れただけで吐き気を感じてしまう。仕方ないのでデンタルリンスなどでうがいするだけにしている」という方もいらっしゃるようですが、やはりそれだけではお口の健康維持は難しいと思われます。できるだけヘッドの小さい歯ブラシを使うなどして、口腔内の歯垢(プラーク)を減らす努力をしていただければと思います。

とはいえ、一番望ましいのは「妊娠がわかってから本気でデンタルケアをする」のではなく、妊娠するまえから予防歯科で歯の健康を守り、妊娠中に虫歯や歯周病になることを予防しておくという意識を持っておくことです。

おすすめしたいのは、これから妊活に入る女性や妊娠の可能性がある女性は、普段から「歯のかかりつけ医」を持ち、自分の歯や口腔内の状態・コンディションを歯科医師に把握しておいてもらい、早めに虫歯や歯周病の予兆を発見できる体制を整えておくことです。

かかりつけの歯科医からは、あなたの歯の生え方や口腔内の状態によって、適切な歯のホームケアの方法についてもアドバイスをもらえると思いますし、あなたの体質をよく理解しておいてもらうことで、妊娠中に虫歯や歯周病が発見されたとしても、適切な対処法を判断しやすくなるでしょう。

普段から歯科医師と良好な関係を

実は、予防歯科を標榜していない歯科医院の多くでも、日頃から「歯のプロケア」や「歯科検診」という形で予防歯科に関わっています。
プレジールでも、日頃から口元のエステや歯のクリーニング、検診といった形で患者様の歯の健康と深く関わらせていただいておりますし、妊活中の患者様に対して歯や口腔内のケアについてのアドバイスを歯科医師の立場からさせていただくこともあります。

上記で説明した歯のかかりつけ医についても直近に妊娠の可能性がある女性に限らず、すべての方に持っていただきたいと考えています。
そうすれば、「削る・抜く」といった、痛みを伴い健康にも決して良いとはいえない歯の治療法をおすすめしなくてはならない可能性が、大きく減ると思うからです。


  • コラムに掲載されている施術などは、必ずしも当院でご提供してるサービスに限りませんので、ご了承ください。