やはり、できるだけ抜かないほうがいい。抜歯矯正と非抜歯矯正

こんにちは! デンタルサロン・プレジールの歯科医師、川邉(かわべ)です。「歯医者さんがホンネで薦める審美歯科ここだけの話」をいつもご愛読くださりありがとうございます。皆様の歯と口元の美しさに、少しでもこのコラムをお役立ていただければ幸いです。

さて、今回は「抜歯矯正と非抜歯矯正」のお話をしたいと思います。
プレジールでは、多くの患者様から歯の矯正についてお問い合わせやご相談をいただきます。
残念ながらプレジールでは歯列矯正を手掛けておりませんが、私たち審美歯科医師は、歯列矯正についても最新情報を学んでいますから、わかる範囲のことはお答えするようにしています。

その中で、特に悩ましいのが「歯列矯正をするために歯を抜くべきか、抜かざるべきか?」という問題です。
プレジールは「健康な歯を抜かない・削らない」をポリシーとしています。しかし、歯並びを美しく整えるためには、時として抜歯しなくてはならない場合があります。
その一方で、世間にはまるで「どんな歯並びでも、抜歯せずに矯正できる」かのような広告を出しているデンタルクリニックもあり、戸惑っておられる患者様も多いのではないでしょうか。

抜歯は外科手術! くれぐれも慎重な判断を

抜歯矯正と非抜歯矯正を比較するまえに、「健康な歯を抜くことは私たちの体にどのような影響があるのか?」という説明をしたいと思います。

抜歯は、れっきとした外科手術です。麻酔をしていますから術中には痛みを感じませんが、麻酔が切れれば痛みも感じますし、当然出血もします。出血はだいたい翌日には収まりますが、歯を抜いたあとにできる「血餅」というプヨプヨしたかさぶたが取れてしまうと、いつまでも出血が続く場合があります。このような場合、傷口がいつまでもふさがらずに骨の一部がむき出しになってしまうため、強い痛みや腫れが長引きます(これを「ドライソケット」といいます)。

元々心臓疾患などがある場合は、医科との密接な連携が必要です。傷口から細菌が侵入すると重篤な感染症にかかるおそれもあります。下の親知らずを抜歯した場合などは、下歯槽神経を刺激し、神経麻痺(顔面麻痺ではありません)を生じるおそれもあります。
このようなリスクはそれほど大きいものではありませんが、「抜歯は外科手術であり、それなりのリスクもある」ということは念頭に置いていただきたいと思います。

「8020(ハチマルニイマル)運動」について

厚生労働省と日本歯科医師会は、「8020(ハチマルニイマル)運動」という事業を推進しています。
8020運動とは、「80歳になっても自分の歯を20本以上保とう」というものです。
医学的な調査により、高齢になっても自分の歯が20本以上残っていれば、少々固い物でも十分に咀嚼でき、充実した食生活を送れることがわかりました。これは、健康面にも良い影響があります。このため、できるだけ自分の歯を健康な状態で保つことが大切だと考えられるようになったのです。

もちろん、歯列矯正のために歯を数本抜いても、すぐに咀嚼に重大な問題が生じるわけではありません。
しかし、将来高齢者になって、ほかの歯が弱ってきたとき、ひょっとして若いときに健康な歯を抜いてしまったことを後悔することになるかもしれません。
このような視点からも、健康な歯を抜くということは、決して安易におすすめできることではありません。

抜歯しなくてはならない歯列矯正もあります

では、どんな場合でも、歯列矯正では抜歯しないほうがいいのでしょうか?
残念ながら、一概にそうもいえません。
というのは、歯をきちんと整列させるためには、あごの骨に適度なスペースが必要だからです。十分なスペースがなければ、歯は物理的に整列することができず、どれかの歯が歯列の前に飛び出したり、逆に奥に引っ込んだりすることになります。
生まれつき、歯のサイズに対してあごの骨が小さい人の場合、どれかの歯を抜くことによってスペースを作らなくては歯列矯正ができないのです。

ただし、「歯列のカーブ全体を少し外側に広げることで、歯列を整えるためのスペースを作る」という方法なら、非抜歯による歯列矯正も可能です。また、奥歯をもっと口の奥側に移動させ、歯列を整えるためのスペースを作るという方法もあります。
また、抜歯せずに歯と歯のあいだを少しずつ削ってスペースを作るという方法もあります。

ただし、これらの方法は、誰にでも適用できるというものではありません。詳しい検査と診査・診断により可能かどうかを見極めます。

歯列矯正後の「噛み合わせ」が重要

歯列矯正の目的は、医療的なものと審美的なものの2種類に大別できます。
医療的な目的で行う歯列矯正とは、「歯の噛み合わせが悪く、食べ物がうまく噛めない」「歯のあいだから空気が漏れて、滑らかに発音できない」といった症状を改善するために行われるものです。
一方、審美的な目的の歯列矯正は、歯の機能には問題がなく、見た目上の歯並びの美しさを求めて矯正を行います。

ただし、審美的な目的の歯列矯正であっても、矯正後の噛み合わせは非常に重要です。
いくら見た目が美しくなっても、上の歯と下の歯の噛み合わせが悪くなり、食べ物がきちんと咀嚼できないようでは、生活上不便ですし食生活の満足度も低下します。
また、噛み合わせが悪くなることによって、頭痛や顎関節症の原因になることも考えられます。さらに、噛み合わせが悪いと、せっかく矯正した歯が変な方向に動いてしまう可能性もあるのです。ですから「何が何でも非抜歯の歯列矯正がいい」というわけではなく、状況によって歯科医師の適切な判断が必要だということです。

抜歯矯正にせよ非抜歯矯正にせよ、患者様の歯並びや顎の骨の状態をよく診察し、矯正後の理想的な歯並びをしっかりと設計して、矯正を進めていかなくてはなりません。その段階で、「抜歯をしなくても矯正は可能」なのか、「抜歯しなくては不可能」なのかを判断することになります。

歯列矯正以外の方法も視野に入れて

ここでは、

  • 健康な歯を抜くことは、健康上のリスクがある
  • 今は抜歯による問題がなくても、高齢になってから問題が生じる可能性もある
  • 歯列矯正をする場合は抜歯が必要になる場合もある
  • 大切なのは歯列矯正を始めるまえに、しっかりした「完成予想図」を設計することである

というお話をしてきました。

歯列矯正をご希望になる患者様に対して、十分な検査もせず、すぐに「抜きましょう」と決めつけたり、逆に具体的な治療プランの説明が乏しく、「非抜歯で矯正できます」などと安易に施術をすすめたりするような歯科医師には、十分注意してください。

なお、歯の機能面では特に噛み合わせなどの問題がなく、見た目的に歯並びが悪いのを治したいということでしたら、歯を抜かず・削らずに、前歯に人工歯を装着する、当院の「ティーシーズ」という施術も検討されてみてはいかがでしょうか。歯列のお悩みをすべて解決できるというわけではありませんが、人工歯の厚みや形状を調整することで、多少の歯並びの悪さならカバーすることが可能です。

永久歯は一回抜いたり削ったりすると、二度と元に戻す事は出来ません。どうしてもやむを得ない場合以外は、できる限り末永くご自分の健康な歯を大切にしていただければと思います。