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えっ? 「インプラント矯正」って人工歯根を埋め込むんじゃないの? インプラント矯正を正しく理解しましょう!

2016.06.02

インプラント

こんにちは! デンタルサロン・プレジールの歯科医師、中村です。
「歯医者さんがホンネで薦める審美歯科ここだけの話」では、審美歯科に関する情報、口元の美しさや健康に関する情報を総合的にお届けしています。読者の皆様の美容や健康にお役立ていただければ幸いです。

先日、ある患者様とお話をしていたら、「インプラント矯正」のことを「歯並びの悪い歯を抜いて人工歯を埋め込むこと=つまり差し歯」だと誤解していらっしゃることに気付きました。どうやら、一般の方が「インプラント」と聞くと、歯が抜けてしまった部分に人工歯根を埋め込む「インプラント」のことを連想してしまうようです。しかし、実際のインプラント矯正はまったくそのようなものではありません。自分の歯を活かして位置や角度を移動させる、歯列矯正の一種です。

そこで今回は、そのような一般的なインプラントとは違う、歯列矯正の一種であるインプラント矯正について、歯科医のホンネでお話しさせていただきたいと思います。

そもそもインプラントとは?

そもそも「インプラント(implant)」とは、「移植する」「根付かせる」といった意味を持つ英語で、医療分野では、骨折した骨を接合するためのボルトやプレート、人工関節などを体内に埋め込み、そのまま定着させて機能を回復するような場合に用いられる言葉です。
歯科医療の場合は、一般によく知られるように、歯のなくなった場所に人工の歯根を埋め込み、人工歯をしっかり固定する「インプラント」が広く普及しています。インプラントを用いることで、自分の歯がもう一度再生したかのように、しっかりと食べ物を噛みしめることができるようになります。

インプラントは「チタンという金属が骨と結合する」という現象を利用した歯科治療法です。

さて、「implant」には、もうひとつ別の意味があります。それは「しっかり差し込む」「固定する」という意味です。
インプラント矯正の場合も、インプラントと同様、チタン製の「アンカースクリュー」という、ビス型のインプラントを用います。ただし、アンカースクリューはインプラントのように生涯患者様の骨の中に根付かせるものではなく、矯正が終了したら取り外す一時的なインプラントとなっています。

インプラント矯正の概要

一般的な歯列矯正(ワイヤー矯正)では、「ブラケット」といわれる小さなパーツを歯に接着し、ブラケット同士をワイヤーで結ぶことで、ワイヤーの反発力や張力を使って歯を動かしていきます。つまり、歯と歯同士がワイヤーで綱引きをしているようなもので、双方の歯が動きます。
このため、1~2本の歯をほかの歯の歯列にそろえたい、あるいは歯列全体をそろえたいという場合には適していますが、「前歯全体を後ろに移動させたい」というような場合には注意が必要です。マウスピース矯正の場合もそれと同様です。無理に前歯を引っ張ると、奥歯に反対向きの力が加わり、動かしたくない歯まで動いてしまうリスクがあるからです。

しかし、インプラント矯正の場合は、歯に固定源を求めるのではなく、アンカースクリューを患者様の歯槽部(顎の骨)に植立し、ここを固定源とし、ワイヤーを掛けて歯を引っ張ることができるので、奥歯を含めた歯列全体を動かすことも可能になります。
また、奥歯も含めて動かせるということは、従来は第一あるいは第二小臼歯を抜かなくては前歯を引っ込めるスペースが足りなかったようなケースでも、非抜歯の矯正が可能ということになります(顎の形状や歯並びの状態によっては、抜歯が必要になる場合も考えられます)。

アンカースクリューについて

インプラント矯正に使うアンカースクリューは、一見、木工用ネジのような形状をしています。しっかり歯槽骨に固定できるようにするため、長さは6〜10mmほどです。そして、ヘッドの部分にワイヤーのフックが引っ掛けられるようになっています。

アンカースクリューの植立には手術が必要です。予めスクリューや使用する器具を滅菌し、植立する部位に局所麻酔を施します。そして、骨ドリルで誘導孔を開け、その孔にアンカースクリューを植立します(誘導孔を開けずに直接スクリューを骨にねじ込む場合もあります)。この際、スクリューの先が歯根に接触しないようにします。手術時間は、スクリュー1本につき15分程度をみておけばいいでしょう。

なお、アンカースクリューは矯正終了後撤去しますが、元々目立たない(外から見えることはまずない)部位への施術でもありますから、通常は傷跡が残ることなく、きれいに治癒します。

インプラント矯正の注意点

最後に、インプラント矯正を受ける際の注意点について説明します。
まず、ほかの矯正方法と異なり、「アンカースクリューを植立する」という点が、インプラント矯正の大きな特徴です。手術自体は上記のような比較的簡単なものですが、それでも骨にインプラントを埋め込むのですから、植立部位の腫れや痛み、内出血、あるいは手術時に神経や血管を傷付けるリスク、感染症、合併症などの可能性も多少は考えられます。

また、植立したアンカースクリューには、歯を動かすための大きな力がかかります。歯列矯正は数年単位で進められるものですから、この間にスクリューが折れたり、あるいは抜けたりという可能性もあります。スクリューが抜けた場合は再手術が可能ですが、骨の中でスクリューが折れた場合(破折事故)、埋入部分の破折片を除去するための手術が別途必要になることもあります。

手術を伴うインプラント矯正
しっかりとしたインフォームドコンセントに基づいた決断を

インプラント矯正とインプラントとの違い、そしてインプラント矯正とほかの一般的な歯列矯正との違いについてご理解いただけたでしょうか。
アンカースクリューを用いることで固定源が作れるインプラント矯正は、ほかの歯列矯正に比べて矯正の自由度が高いというメリットがある反面、外科手術が必要であり、長期間にわたって歯の骨の中に異物(アンカースクリューの素材はチタン合金が一般的です)が挿入(植立)され続けるわけですから、一般的な歯列矯正以上に口腔衛生に気を付ける必要があります。

インプラント矯正がすすめられる場合には、一般的に術前にX線撮影を含めた慎重な検査が行われます。また、インフォームドコンセント(治療方針に関する医師と患者の合意)を元に治療が開始されます。

歯列矯正、あるいは「審美的に歯並びを美しく見せる」という施術法に関しては、インプラント矯正以外にもさまざまな選択肢があります。
もし、インプラント矯正を歯科医院ですすめられて、「どうしよう…?」と迷ったら、ぜひ当院にご相談ください。客観・中立の立場から、患者様一人ひとりの歯の状態に合わせて、どのような矯正法がふさわしいのか、患者様のお気持ちになってセカンドオピニオンをご提供させていただきます。


  • コラムに掲載されている施術などは、必ずしも当院でご提供してるサービスに限りませんので、ご了承ください。